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■二上山のヤツデ

高岡生物研究会 内島宏和

写真1 民家のヤツデ  H16.1.21

1)はじめに
 写真1は、高岡市内の住宅でみかけたヤツデである。ヤツデは少し湿った日陰の庭に植えられる木であるが、最近はあまり見かけなくなった。

 熟年の方の中には、子供時代にヤツデの葉をもって天狗様気取りで遊んだという方や、高ノ宮の祭りで、色々な植物の民間薬としての効能を述べる香具師の口上につられて、そーっと覗いてみると、ヤツデの葉もあったという記憶のある方もいらっしゃるかと思う。また、ヤツデは防火力(火炎に耐え火炎を遮断する)や大気汚染に対して強い樹木であるとして都市の防災や環境保全の面で注目されている。欧米では、ヤツデは観葉植物として珍重されている。このようにヤツデは身近な植物の一つである。

 植物図鑑を開くと、「ヤツデは福島県あるいは茨城県以西から、太平洋側を四国、九州を経て南西諸島(とから・奄美・琉球列島)まで、海岸の林の中に生える日本特産の暖地性の植物で、高さ3〜5mになる常緑低木である。」と解説してある。したがって、日本海側の当地では、ヤツデは栽培種であると信じてきた。

 筆者が所属する高岡生物研究会では、1980年にその会誌で二上山の植物を特集した。そこには会員の観察記録や当時入手しえた資料を元に「二上山周辺の植物の仮目録」を載せた。この仮目録に、ヤツデは載っているが、ヤツデは当然栽培種であるとして特に分布に関する記述はしていない。

ところで、筆者は一昨年9月まで仕事の関係で16年あまり富山県外に住んでいたが、昨年春から再び二上山を歩いたところ、ヤツデがちょくちょく目にとまった。そして「あれっ、かって、こんな所にヤツデがあったかいなー」と思った。これが、これから紹介するヤツデの調査を始める動機となった。

2)氷見市朝日神社のヤツデ
改めて、富山県のヤツデに関する文献はないかと探したところ、1983年に出た「富山県植物誌」という本に、「氷見の海沿いの林の中に生育すること、氷見市小境の朝日神社、入善町杉沢、その他に見られること」が書いてあった。そこで、昨年12月に氷見市小境へ出かけた。ここのヤツデは、スダジイ(いわゆるシイノキ)の林にあるのですが、株の数は少なく、写真2にあるように誠に貧弱な株しか見かけなかった。

図1
出典:石川県地域植物研究会編、
1994年、石川県樹木分布図集
氷見市小境 朝日神社のヤツデ
          H15.12.15
図2 二上山地域のヤツデの分布
  印     H16.1.30作成

3)石川県樹木分布図集によるヤツデの分布
 次に、1994年に出た「石川県樹木分布図集」では、石川県が分布の北限であるとして図1のような分布図を載せている。

 左側の図はヤツデの分布を5倍地域メッシュで示したものである。メッシュの1桝は1/25000地形図の1/4(東西約5.5×南北約4.5km)に相当する。●は1945年以降の標本が現存することを示している。また、〇は1945年以前に採集された標本のみがあることを示している。

 右側の図は、ヤツデが確認された場所の標高を示したもので、ほとんどは標高0〜100mの範囲に入っているが、標高100〜200mの範囲にあるものが3ヵ所で見られる。ちなみに筆者が調査した二上山地域のヤツデは最高で標高約70mである。また、ヤツデはスダジイを主とする林にあることが、石川県樹木分布図集の解説に記述してあり、氷見市小境の朝日神社の場合と同じ生育環境である。

4)二上山地域のヤツデの分布(基準地域メッシュ図による)
 筆者が二上山のヤツデの調査を始めたのは、昨年10月からである。したがって、平成16年1月末現在で、二上山の南西端の守山から、東側の伏木、雨晴を廻って北側の太田の与茂九郎池までの範囲の山麓部しか調査をしていない。結果を環境省などが使用する基準地域メッシュ(東西1.1k×南北0.9キロ)に落してみると、図2のようになる。この図では、〇のついた桝目にヤツデが生育していることを示す。
 この桝目は、1/25000地形図を緯度・経度でそれぞれ10等分した桝目になっており、先ほどの石川県樹木分布図集と比較すると、二上山地域全体で、石川県樹木分布図集の場合の約1桝分の広さにしかならない。石川県の調査はすばらしいと思う。

5)ヤツデの分布図(1)〜(7)
もっと詳しく二上山地域のヤツデの分布を描いたのが、これからお見せする7枚の地図である。
赤丸がヤツデの生えている場所を示している。それぞれの場所の生え具合によって一つの丸が1株のものから10株以上もあるものもあるが、地図の縮尺の関係でこのような表示になった。

1.谷内(図3、ヤツデの分布図(1)): 二上射水神社に向かって右側のスギ林の中に生育する。慈尊院の前庭には樹高440cmの大きな株がある。山園町の谷の奥にある堰堤の前にも大きな株がある。二上青少年の家への登り道では、崖に生えたヤツデが見られる。

2.城光寺(図4、ヤツデの分布図(2)): 城光寺の滝の少し手前の道の縁に1株あった。樹高は40cmであった。 

3.矢田地区(図5、ヤツデの分布図(3)): 谷に開発された住宅地の奥のスギ林の中に生育している。東側の谷で約150株、西側の谷で約50株観察した。

4.赤坂山配水池・気多神社・白山林道・万葉ライン登り口(図6、ヤツデの分布図(4)): 赤坂配水池の周りの林の中、気多神社の境内及び外周道路沿い、白山林道沿い及び万葉ラインの伏木側登り口でヤツデの観察を行った。

5.石雲寺・岩崎〜渋谷の旧道(図7、ヤツデの分布図(5)): 岩崎鼻台地上の山道沿いに生育する。また、岩崎から渋谷への旧道沿いにヤツデが見られた。幹まわりが20cmくらいの株もあり、生育状態が良好である。石雲寺周辺、旧道沿いともコナラが優先する林である。

6.義経岩前駐車場(図8、ヤツデの分布図(6)): 崖の上部に比較的大きな株がある。危険なので接近して観察できなかった。

7.与茂九郎池(図9、ヤツデの分布図(7)): 池側の斜面で1株みつけた。また、殿山自然休養村に続く道の縁でも1株みつけた。

図3:ヤツデの分布図(1) 図4:ヤツデの分布(2) 図5:ヤツデの分布(3)
図6:ヤツデの分布(4) 図7:ヤツデの分布(5) 図8:ヤツデの分布(6)
   
図9:ヤツデの分布(7)    

6)ヤツデの樹高分布図(1)〜(6)
次に、これらのうちから、6ヵ所についてヤツデの樹高を5cm刻みで調査した結果をグラフにしてみた。
1.谷 内(図10、ヤツデの樹高分布図(1)); 主としてスギの林の中で、52株の樹高を測定した。最大で440cmのものがあるが、平均の樹高は48cmであった。大きな株は、射水神社社務所の向かい側の慈尊院の庭と山園町の谷とにある。この地域ではこれら2株が元になって広がったもので、慈尊院は前庭一杯にヤツデが広がっている。色々な高さの株がほぼ同数混ざっていることが分る。

2.矢田地区(図11、ヤツデの樹高分布図(2)); 全てがスギの林の中に生育している。208株の樹高を測定した。最大270cmだが、50cm以下の株が目立つ。平均樹高は40cmで、6地区の中で最小の樹高である。ヤツデの生長の度合いは、今後調べる予定であるが、ここに数年前から急に繁殖してきているのではないかと考える。

3.赤坂山配水池(図12、ヤツデの樹高分布図(3)の上); 万葉歴史館の裏に当り、34株の樹高を測定した。平均樹高は52cm。約1/3はスギ林の中、残りはサクラ、コナラなどの林である。最大樹高140cmだが、ここも色々な高さのヤツデがほぼ同数生えている。
4.気多神社の周辺(図13、ヤツデの樹高分布図(3)の下); 104株のヤツデを測定し、平均樹高は58cmであった。樹高の低いものから高いものに向かって徐々に数を減らしているようだ。ヤツデは、境内ではスギの林、外周道路沿いではコナラの林に生育していた。

5.石雲寺付近(図14、ヤツデの樹高分布図(4)の上); 大伴家持の「海行かば〜」の歌碑があるところへの上り坂の途中、コナラ林の中のヤツデである。36株のヤツデを確認し、最大130cm、平均樹高は65cmであった。先ほどの赤坂山配水池のヤツデと同様に色々な樹高のものがほぼ同数見られる。
6.岩崎〜渋谷旧道(図15、ヤツデの樹高分布図(4)の下); 104株のヤツデの樹高を測定した。ここではヤツデが生えている場所に、あまり丈の高い樹木がなく、崖の途中や崖の上部にある株もあり、比較的ヤツデへの日当りは良好である。そのためか平均樹高は83cmで、6ヵ所の中で1番のっぽのヤツデがそろっている。グラフを見ると100cm以上の株が目立つ。

 以上6ヵ所についてヤツデの樹高分布を紹介したが、これらのヤツデが今後どのように伸び、生育範囲を広げて行くのか、追跡調査をしたい。
 次に、それぞれの場所で、ヤツデがどのように生えているのかと云うことであるが、多くは、道路または山道のすぐ近くにあり、歩いていて存在が確認できる場所にあった。また、道沿いの切り立った崖の上部か林の中か、のいずれかであった。ヤツデは日陰でも育つ樹木なので、スギ林では林の中の方まで広がっている。
 岩崎から渋谷に至る旧道、白山林道、義経岩前駐車場などでは、一部切り立った崖の上部にあり、現地に近づくことができなかったので樹高の測定ができなかった。

7)ヤツデの生育環境と花茎数及び分枝株の比率
 植物の調査をする際には、特定の植物だけでなく、どのような植物とともに、そこに生えているか、一定の範囲について全ての種を調べることが必要である。このような調査を植生調査という。ヤツデの場合も勿論植生調査が必要なので、何ヵ所かについて大雑把ではあるが、植生を記録した。しかし、ヤツデの調査を始めた時期には秋が深まっており、落葉や枯れ込みが進んでおり、種名を判定できない植物が多かった。そこで、今回は一番大きな樹木のうち主となるものを表1の「ヤツデの生育環境」の欄に記して説明する。

表1   ヤツデの花茎数及び分枝株の比率      16.1.30

場 所 ヤツデの生育環境(高木層の樹種) 株数 平均樹高,cm 花茎数の株数に対する比率,% 分枝株の比率,% 分布の由来
谷内 スギ 52 48 19.2 11.5 逸出
矢田地区 スギ 208 40 1.5 0.0 逸出
赤坂山配水池 スギ・サクラ・コナラ 34 52 8.8 0.0 逸出
気多神社周辺 スギ・コナラ 104 58 8.6 5.8 逸出
石雲寺付近 コナラ 36 65 44.4 16.6 逸出
岩崎〜渋谷旧道 コナラ 104 83 50.9 14.4 自生?
万葉ライン登り口 コナラ 22 ―― 77.3 ―――― 逸出
白山林道 コナラ 27 ―― 44.4 ―――― 逸出
石川県、氷見市小境 スダジイ ――― ―― ―――― ―――― 自生
神奈川県、千葉県 クロマツ ――― ―― ―――― ―――― 自生

  これまでの話をまとめたのが、表1である。二上山地域では、スギまたはコナラ(いわゆるドングリ)の林の、低木(丈の低い木)としてヤツデが育っているところに特徴がある。
 先ほど紹介したが、石川県や氷見市小境ではスダジイの林にヤツデが入っている。また、神奈川県や千葉県では海岸のクロマツ林でヤツデを見かけた。
  また、平均樹高、花茎がついた株や枝分かれした株がどれくらいの比率か調べることでヤツデの成熟度を調べようと試みた。
  結果はこの表のように、常緑のスギ林のものに較べてコナラの林のヤツデは樹高が高く、花茎数や分枝の比率が高いことから、元気がよいといえる。

8)ヤツデの分布の由来
 栽培種が何らかの原因で自然界に出ていって定着繁茂する現象を「逸出」という。二上山地域のヤツデでは、谷内の慈尊院の庭木、山園町の谷の堰堤前の大きな株、国分・石雲寺横の株の三つがまず逸出の元としてあげられる。その他の場所については現地の近くにこれといって大きなヤツデはないし、海の影響を直接受けていないような、例えば海岸線から1km以上離れた二上山地域のヤツデは、逸出して繁茂したものと考えている。

 ところで、岩崎〜渋谷旧道沿いのヤツデであるが、富山県植物誌の記事に「氷見の海沿いにあることと、これより東の入善町杉沢(海岸から数100m)に生育する」と記されていることから類推すると、海岸に近い岩崎〜渋谷の旧道沿いのヤツデはもともと自然に生育していたといえるかもない。しかし、これを確かに裏づけるためには、伏木、雨晴地区のヤツデの古い標本や資料を探さねばならない。それは今後の課題である。現時点では、他の場所と同じように、野鳥が運んだ種子が発芽して繁殖した、いわゆる逸出して繁茂したとしておくのが無難であろう。

 次に、二上山地域のヤツデが逸出した要因を考えてみよう。ヤツデの実が稔る初夏の頃は野鳥の繁殖期に当る。野鳥が民家の庭や小公園等でヤツデの種子を食べて、休憩場所である林の縁や道路の近くの樹木あるいは崖の縁の樹木で糞とともに種子が排泄する。それが、発芽して繁殖したものと推定する。どんな野鳥が運んだものか、今後の調査の中で野鳥に詳しい人の情報を得て明らかにして行きたい。

 野鳥は食べたものを長時間体内にとどめておけないので、山麓の宅地開発の進行も、二上山地域におけるヤツデの逸出の大きな要因の一つであろうと考える。また、近年降雪量が少なくなって、雪がこいをしなくても冬を越せること、さらに、地球温暖化もこの地域におけるヤツデの逸出の要因として見逃せないものと考える。

9)今後の課題
以上、二上山地域におけるヤツデの分布とその由来について紹介した。今後の課題を述べて本報告のまとめとする。
1.山麓部の未調査区域、および山地の中央部(標高100以上)の調査を行う。

2.ヤツデが生育している場所の植生を明かにする。(植物の生育期に)

3.ツデの樹高について追跡調査を続ける(生育範囲の拡大を含みます)。

4.他の地域のヤツデと比較する(入善町杉沢等)。新潟県の状況についても調べる必要があると考えている。