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2004.1.20
植物班 泉 治夫

二上山のブナ林

1.はじめに

 ブナ( Fagus crenata Blume )は、温帯の夏緑広葉樹を代表する落葉高木で、日本の自然林のうちでも最も美しく豊かな植生を構成する。 肥沃な土壌によく生育して極相林を作り、樹高は25〜30mに達する。

 日本海側の多雪地帯にはチシマザサーブナ群団が分布し、太平洋側のスズダケーブナ群団と区分される。チシマザサーブナ群団は、低木層にエゾユズリハ、ハイイヌガヤ、ハウチワカエデ、ヒメモチ、チシマザサ、ヒメアオキ、オオバクロモジなどが優占する。

 チシマザサーブナ群団は、さらにヒメアオキーブナ群集、マルバマンサクーブナ群集などに分けられている。ヒメアオキーブナ群集は、県内の標高300〜800メートルの低標高地域に広く分布しているが、とくに県西部および県南部に多い。マルバマンサク-ブナ群集は、標高が比較的高い600〜1500メートルあたりの比較的乾燥した土壌の浅い尾根筋や急斜面にみられる。また、豪雪地帯にはヒメアオキーブナ群集の地域群集として、ユキツバキーブナ群集が知られている。

 高岡市の二上山頂上付近(274m)に自生するブナは、県内のブナの分布の下限に近いものであり、倶利伽羅山のブナ林(260m)、小白山(110m、小矢部市臼谷)のブナ林、牛嶽神社(110m、砺波市市谷)のブナ林、三国山(240m、石川県津幡町下河合))のブナ林とともに、低山型のブナ林として注目に値する。

2.二上山のブナ林

調査日 2002年12月22日、 2003年1月1日、2月2日、3月30日、4月27日、5月1日、5月3日、7月3日、7月26日、8月10日、10月8日、11月14日、11月24日、11月28日。

 二上山頂上は、南北方向に約45m、東西方向に約5〜20mの中央部がわずかに高い平坦面となっている。そのほぼ中心に山王日吉社の小さな祠がある。平坦面のほとんどに表層土はなく、樹木もわずかである。樹木は平坦面を取り囲むようにその縁より下部斜面に生えている。

 ブナは20株、その殆どは頂上の平坦面の北側・東側・南側の縁かやや下部に自生しており、西側には株立ちのものが1株みられるだけである。ブナの樹高は3〜20mで、(表1)の通り、その殆どは根元付近から萌芽による更新をしている。このことは、二上山のブナ林の大きな特徴である。

 樹高は、頂上の平坦地縁にあるものは低く、やや下の斜面にあるものが高い傾向にある。これは、頂上部における強い西風の影響、および表層土の厚さや土壌中の養分、アカシデやコナラなど他の樹種との競合の結果と考えられる。また、ブナ(調査標識記号・A,B,D,L)の近くに実生幼木14株(樹高・10〜100cm)を確認した(表2)。これらの幼木は、概ね親木の北東側から東側、南側にかけて分布している。

 落葉広葉樹には他に、アオハダ、ヤマザクラ、キンキマメザクラ、アベマキ、ネジキ、ウラジロノキ、ヤマモミジ、コハウチワカエデ、ツクバネなどが自生している。

 常緑樹は、アカガシが頂上の平坦地を取り囲むように斜面上部に6株、大きな株は東側に2株、萌芽株立ちのものが4株あるほか、頂上から城山への細尾根の途中の西側斜面上部に3株が自生している。二上山頂上は、富山県内で唯一、ブナとアカガシが混生している場所として知られている。

 その他、ソヨゴ、ヤブツバキ、イヌツゲ、ヤブコウジ、ツルグミ、ヒサカキなど。針葉樹は、モミ(8m、植栽による)のみ。スギ、アカマツが、頂上よりやや下ったところに見られるが、アカマツの殆どは枯れている。

(表1) 二上山頂上のブナ・計測結果                            

調 査 (2003年1月1日、2月2日、3月30日、5月1日  泉 治夫)

樹高(m) 20
胸高周囲(cm) 217

備考

1本の太い主幹と細い萌芽。アカシデ(17m)と競争。付近はチマキザサが繁殖している。

樹高(m) 11
胸高周囲(cm) 220 (110+110)

備考

根元より50cmのところで2本となる。

ヤドリギ3株着く。

樹高(m) 8.5
胸高周囲(cm) 238 (132+90+16)

備考

根元より1m の所で2本に。上部は腐りが入っている。崖の縁。根元に多数の萌芽出ている。

樹高(m) 8.5
胸高周囲(cm) 192 (124+68)

備考

根元で2本に分かれる。萌芽2本出る。

樹高(m) 8.5
胸高周囲(cm) 182 (110+72)

備考

根元より1mで2本に分かれる。

 

樹高(m)
胸高周囲(cm) 103 (64+39)

備考

根元で2本に分かれる。

樹高(m) 10
胸高周囲(cm) 167 (90+47+30)

備考

根元で3本に分かれる。1m離れたコナラと競合している。

樹高(m) 12.5
胸高周囲(cm) 401  (110+108+97+56+30)+α

備考

根元で5本に分かれ、さらに細い萌芽3本。

樹高(m) 12
胸高周囲(cm) 175  (55+34+29+16+15+14+12)+α

備考

根元で7本。多数の萌芽あり。

樹高(m) 12
胸高周囲(cm) 245 (145+100)

備考

(I)の1m下に位置。50cmの所で2本にわかれ、1本の枝は根元より曲がり立ち上がる。

樹高(m) 10
胸高周囲(cm) 114 (81+33)+α

備考

根元より50cmの所で2本に別れるも、主幹は完全に枯れて無い。他に5本の萌芽あり。

樹高(m) 12
胸高周囲(cm) 256 (104+63+59+30)

備考

根元より4本に分かれる。

樹高(m) 11
胸高周囲(cm) 200 ( 78+49+28+22+14+9 )

備考

北側斜面中腹。6本に株立ち。

樹高(m) 13
胸高周囲(cm) 174 ( 60+59+37+18 )

備考

北側斜面中腹。4本に株立ち。

樹高(m) 14
胸高周囲(cm) 152 ( 75+47+20+10 )

備考

北側斜面中腹。4本に株立ち。

樹高(m)
胸高周囲(cm) 229 (98+81+50)

備考

(L)の下方26mに位置する。根元から20cmで2本に分かれ、根元のすぐ脇にさらに1本出る。3月30日、葉芽開く。10月、結実。

樹高(m) 6.5
胸高周囲(cm) 266 (29+28+26+24+23+21+20)+α

備考

頂上平坦面の唯一西側にある。根元から多数が株立ちする。周囲20cm以上のものが7本、他に10cmに満たないものが4〜5本。

樹高(m)
胸高周囲(cm) 15

備考

(B)の南東約1.8mの位置に一本立ち。

樹高(m)
胸高周囲(cm) 16

備考

(B)の下方約5mに位置する1本立ちの細い株。直ぐ横にコナラ、アカシデの大木があり、成長が抑えられている。

樹高(m) 6.5
胸高周囲(cm) 66 (28+24+14)

備考

(S)の下方10mの斜面に位置する。根元で3本に分かれる。

写真 2003.7.26 調査用標識設置 撮影 泉 治夫

 

(表2) 二上山頂上のブナ(実生株)・計測結果

調 査 (2003年4月27日  泉 治夫)

A-a

樹高(cm) 15
葉の数(枚) 10
親木からの位置 (A)のS10W,    6m

A-b

樹高(cm) 20
葉の数(枚) 7
親木からの位置 (A)のS,      1.7m

A-c

樹高(cm) 12
葉の数(枚) 4
親木からの位置 (A)のS,      3.4m

A-d

樹高(cm) 50
葉の数(枚) 27
親木からの位置 (A)のS20E,   5.5m

A-e

樹高(cm) 90
葉の数(枚) 170
親木からの位置 (A)のS45E,    4m

A-f

樹高(cm) 18
葉の数(枚) 7
親木からの位置 (A)のE,      5.8m

A-g

樹高(cm) 15
葉の数(枚) 4
親木からの位置 (A)のN60E,   3.8m

A-h

樹高(cm) 60
葉の数(枚) 49
親木からの位置 (A)のN45E,   5.2m

A-i

樹高(cm) 40
葉の数(枚) 19
親木からの位置 (A)のN45E,   5.3m

B-a

樹高(cm) 15
葉の数(枚) 5
親木からの位置 (B)のN80W,   4.2m

B-b

樹高(cm) 55
葉の数(枚) 41
親木からの位置 (B)のS40W,    6.2m

D-a

樹高(cm) 80
葉の数(枚) 128
親木からの位置 (D)のN10E,    2m

L-a

樹高(cm) 100
葉の数(枚) 164
親木からの位置 (L)のE,     3.6m

 L-b

樹高(cm) 10
葉の数(枚) 6
親木からの位置 (L)のE15S,   8.3m
写真 A.B.D・・・・2003,5,3 L・・・・・・・2003,10,8   泉  治夫

 

3.低山帯のブナ林

調査地 倶利伽羅山  (小矢部市)

標高 260m  調査日 1984年9月24日、 1984年11月3日、 2003年12月5日 

 猿が馬場のブナ(樹高・約20m)は約20株、アカシデ、コナラ、イタヤカエデなどとももに高木層を構成している。ブナは萌芽更新している株は極わずかである。亜高木にコシアブラ、アオハダ、タカノツメ、アズキナシ、低木にイヌツゲ、ヒサカキどの常緑樹、ネジキ、ツクバネなどを見る。あたりは園地になっており観光客の出入りが多くいので、低木層・草本層は貧弱であるが、ヤブコウジ、チマキザサなどが僅かに見られる。隣接してアカシデ群落、コナラ群落が見られる。

 頂上(277m)の五社権現付近に目立つ1株が生えている。頂上から倶利伽羅不動寺へ続く短い稜線は、コナラが混じるアカシデ林であるが、ブナが僅かに混じる。土壌と風の影響か樹高は大きくない。しかし、和光堂付近の斜面の株は特に大きい。不動寺前の1株も大きく目立つ。


調査地 小白山(おしらやま)   (小矢部市臼谷)

標高 110m  調査日 2002年12月20日

 同地は稜線の末端に近い尾根上にある。山麓からモウソウチクとスギの混じった林の中に、一直線の階段上り道が通じており、約5分で白山権現の小さな祠の前に出る。祠の両側にスギの大木が2株(直径・157.6cm, 140.1cm)ある。祠より稜線上部には、高木・亜高木にウラジロガシが優占し、特に3株は萌芽による巨木で目立つ。アカシデが混じる。

 ブナの自生が見られるのは、祠より下部の長さ30m・幅15〜20mほどの緩傾斜の尾根で、周囲3方を山麓から続くモウソウチク林に囲まれている。ブナ林内には、アカシデ(7株)、アカマツ(2株、直径・35.0cm, 22.3cm)、わずかのヤブツバキ、ヒサカキ以外に樹木は少ない。

 一帯は、明らかに何年にもわたって人為的に低木などが伐採され管理されてきたことを示している。同地は、砺波市市谷・牛嶽神社境内林とともに、県内における最も標高の低い場所のブナ林であり注目される。

 23株のブナのうち、直径30cmを越える株は8株、最も太い株で約59cm、明らかに萌芽更新と考えられる株が2株ある。また、実生による高さ2.5mの低木が2株ある。ブナ保存のため人為的に開かれた空間と、わずかながら樹冠のギャップが実生を可能にしていると考えられる。

ブナ(直径)・・・・・・ 58.9cm, 55.7cm, 52.6cm, 47.8cm, 44.0cm, 42.0cm, 36.6cm, 32.8cm, 29.6cm, 29.0+24.5cm, 17.5+19.1cm, 16.6cm, 16.2cm, 15.9cm, 14.3cm, 13.4cm, 8.0cm, 6.4cm, 5.7cm(2.5mh), 4.8cm, 3.8cm(2.5mh)


調査地 牛嶽神社   (砺波市市谷)

標高 110m  調査日 2002年12月21日

 同地は市谷集落の背後にあり、スギの植林地に囲まれた小尾根の末端付近にある牛嶽神社境内である。境内は、長さ約30m・幅約20mで両側は急斜面であり、社に向かって右側の崖の肩に沿ってほぼ一列に、また左側および前側に大きいブナが生えている。そのうち3株は、萌芽による更新が明らかである。

 社に向かって左側の斜面はウラジロガシを主とする薄暗い常緑樹林となっている。同地は、小矢部市臼谷・小白山とともに、県内における最も標高の低い場所のブナ林であり、ともに社寺林として地元民に保護されてきた。

ブナ(直径)・・・・・・44.0cm+14.7cm, 23mh, 63.1cm, 22.9cm, 15.9cm, 35.7cm, 56.1cm, 53.2cm, 7.3cm+2.9cm+6.4cm, 61.8cm+11.5cm, 58.0cm, 80.3cm, 56.7cm, 36.9cm, 46.5cm,

他に斜面下部に約15株あり。


調査地 三国山  (石川県津幡町下河合)

標高 220〜240m  調査日 1998年12月13日、2004年1月1日

 御山神社境内林。加越能接点の三国山(323.6m)の中腹尾根に純林に近いブナ林があり、イヌシデ林に接する。ブナはイヌシデと混生する。中でも周囲4m・樹高20mの大木は「ブナ爺さん」として地元民に親しまれている。亜高木層にはブナが見られるが、植被率は小さい。低木層にシロダモ、ブナ、ヒメアオキ、ツクバネ、ヤブツバキが多く、草本層にはヤブコウジ、ツルシキミ、ツルアリドウシ、タガネソウが多い。

4.山地帯のブナ林 (省略)   

5.立山のブナ林 (省略)