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藤子まんがのルーツ「たかおか」

オバQが教えてくれたこと > 1.藤子先生の人間愛

〜 オバQが教えてくれたこと(1) 〜
「オバケのQ太郎」にみる藤子先生の人間愛

「オバケのQ太郎」第1巻
小学館(てんとう虫コミックス)
昭和51年8月25日 初版1刷


「オバケのQ太郎」
は、昭和39年、週間少年サンデーの2月号から連載が開始され、目だった人気が出ないままに、9回で打ち切られました。しかし2カ月後、復活を望む読者の熱い声援に支えられ、再連載を開始。その後は人気の高まりにともないテレビ化もされ、日本中にオバQブームを巻き起こす大ヒット作品となりました。

もしも「オバケのQ太郎」のヒットがなかったら、その後の藤子不二雄先生の作風も大きく違ったものになっていたでしょうし、藤子・F・不二雄先生の「ドラえもん」も藤子不二雄A先生の「怪物くん」も存在しなかったかもしれません。それほど大きなターニングポイントとなった重要な作品が、現在は色々な事情のため、復刊が難しくなっているのは、非常に残念なことです。

何よりも「オバケのQ太郎」は、本当に素晴らしい作品です。

 

ここには、誰もがこどもの頃の思い出として記憶している日常の中の夢や遊びやちょっとした冒険が、古典落語のスピリッツを活かした上品でセンスの良い笑いとともに、活き活きと楽しく綴られています。

オバQは正ちゃんの友達であると同時に正ちゃん自身でもあり、正ちゃんとともに、また時には正ちゃんに代わって世の中の色々なことを体験します。その中には通常こどもがめったに経験できないこと(相撲部屋に入門したり、船に乗って外国に行ったり、宇宙に飛びだしたり!)もあります。卵から生まれた無垢な存在であるオバQは、そうした体験の中から世の中のルールやモラルや知識、それに人間性といったものを自然に学びとっていきます。

オバQは「ドラえもん」ののび太同様、成長しないキャラではありますが、のび太が長い目で見ると少しずつ変化しているように、「オバケのQ太郎」にも、ある意味でオバQの成長物語(ビルドゥングスロマン)的な要素があります。登場人物たちの、セリフを読んでいるだけでも吹き出してしまう抱腹絶倒のやりとりの奥に(ブタのヘソとオバQの会話を読んでみてください!)、そんな深い人間愛が秘められているからこそ、僕たちは何度も「オバQ」を読み返し、そのたびに大きな感動を得ることができるのです。


一例として、「オバQ一家せいぞろい」のエピソードをみてみましょう。

〜ある日、オバケの国のパパとママからQ太郎に手紙が届きます。Q太郎のいる人間の世界に遊びに来るというのです。大喜びするQ太郎。でも、実は両親の目的は、Q太郎をオバケの国に連れて帰ることだったのです。両親と正ちゃんたちへの愛情の板挟みに悩むQ太郎。結論はなかなか出ません。

パパが言います。「オバケの国はいいとこだよ。人間とちがってオバケはウソをつかない。病気も戦争もないんだよ」そのうえ、どろぼうや交通事故もないと言います。どうやらオバケの国は、人間の持つ様々な問題を解決したユートピアのようです。

そうするうちに、酔っぱらってだらしなく寝込んでしまった正ちゃん一家を介抱したQ太郎のパパが言います。「みなさい、人間なんてだらしないもんだ。オバケの方がよっぽどいいぞ」

でも、Q太郎の心は決まっていました。

「ぼくこんどこそ決心したよ。人間がだらしないなら、なおさらぼくがそばについていてあげなくちゃ。ぼくは人間がすきなんだ。ほんとうの人間になりたいと思ってるほどだよ」

Q太郎の固い決心を聞いたパパたちは、「ううむ、そうか。もうなにもいうまい。りっぱな人間になれよ」とQ太郎を励ましてオバケの国へと帰っていくのでした…。〜


「オバケのQ太郎」第1巻
小学館(てんとう虫コミックス)
昭和52年3月25日 初版1刷テレビアニメ「妖怪人間ベム」をご存知でしょうか。あの作品のテーマソングには、主人公が「早く人間になりたい!」と叫ぶところがありました。でも同じ「人間になりたい」というセリフでも、ベムとオバQには大きな違いがあります。

ベムの場合は、物語の設定上、妖怪は人間に迫害される存在となっていました。だから、より階級が上(?)である人間になりたかったのですね。人間が上で、妖怪が下な訳です。誰だって虐げられるのはいやですから、「人間になりたい」という気持ちは誰にでも理解しやすいものでした。

それに対してオバQの場合はどうでしょう。人間なんて欠点だらけ。戦争はするし、うそつきだし、どろぼうはいるし、そのうえ、病気や交通事故で亡くなる人もいる。酔っ払ってクダをまいたり、だらしなく寝そべってしまうのも人間だからです。

オバケに比べるとどうでしょう? オバケの方がずっと上ですよね。でも、そんな下等な人間を、オバQは大好きで「なりたい」と言うのです。それは、どうしてでしょうか。

たしかに人間や人間社会には多くの欠点や問題点があります。でも、悩んだり争ったりしながらも、そうした欠点や問題点を一つずつ解決し、よりよい自分やよりよい社会を創り出そうと努力するところに、人間の偉大さや素晴らしさがある…。

「オバケのQ太郎」は、読者である僕たちに、知らずしらずのうちに「人間ていいもんだな」という認識を育て上げてくれました。あくまでもさりげなく、そして愉快な笑いとともに。だからこそ、そのメッセージは、いつまでも消えずに僕たちの胸に残るのだと思います。


さて、今回は真面目なテーマだったこともあり、ちょっと肩に力が入り過ぎたかな、と反省しています。次回からは、もっと気楽にこの名作を味わっていきたいと思っています。どうぞ応援よろしくお願いいたします。

※注/本稿を書き進める中で、藤子不二雄マンガの魅力(倉田新著・清山社刊)に啓発されるところが多々ありました。ここに記して感謝を申し上げます。


 

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